イノベイティブなアイデアが生まれる場として、昨今あらためて注目を集めるアカデミアでのAI研究。数ある研究機関のなかでもビジネスに直結した研究を通じ、すでにさまざまな実績を積み上げ注目を集めているのが、東大発の“AIスタートアップ”「2WINS」です。「アカデミアとビジネスをつなぐ」をキーワードに、日本のAI研究をリードしながら、その活動をビジネスに転用するための道を開拓しようと日々模索する彼らは、どのようなメンバーで構成され、どのような活動を行う組織なのでしょうか。本企画では代表取締役・Co-CEOの小川椋徹さんと、Axellの常務取締役・客野一樹の対談を通じ、彼らの活動や描く未来についてお話をうかがいます。
小川氏とAIの出会いと、2WINSの発足
客野一樹(以降:客野):はじめに、小川さんの経歴について教えていただけますか?
小川椋徹さん(以降:小川):小中高は地元・大分県の学校に通う野球少年でした。現在は東京大学情報理工学系研究科の修士一年に所属し、「自動運転」の分野を研究しています。大学ではソフトだけでなくハードも含め、機械と情報(AI)について、総合的な研究も行っています。
客野:2001年生まれということで、ものごころついたころにはスマートフォンも普及していた世代だと思うんですが、そもそもどういった経緯で自動運転やAIに興味を持たれたんでしょうか?
小川:自分が小学生の頃には、現在学んでいるようなことがらについてすでに興味を持ちはじめていました。もちろん専門用語などは分かりませんでしたが、小学校4年生の頃に漠然と発明家になりたいと思っていた時期があって(笑)。純粋にAIとかロボットとか自動運転のクルマに興味があって、当時は技術的にも今ほど完成されていなかったので、「これを実現できたらかっこいいよな」なんて思っていましたね。当時はそんなこと不可能だと思っているひとの方が大多数で、だからこそ人びとができないと思っていることを実現できたら、すごいんじゃないかって。そこが今も自分のモチベーションであり、現在に至るきっかけです。
客野:「2WINS」についてはどういった経緯で発足したのでしょうか?
小川:中学生くらいになると、自分のなかにあった発明家の定義が変わったというか、目指していたのは“IT起業家”のような存在なんだと気づいたんです。大人になるにつれ自分の手でITの分野で起業したいという思いも強くなっていって、「何を、いつするか」を大学に入ってから具体的に探りはじめました。大学2年生のころにある起業家の先輩と出会い、現在共同代表を務める吉村良太とともにいろいろなひとと交流を図りつつ、コミュニケーションの輪を広げたり、起業に向け試行錯誤をしながらふたりで立ち上げたのが「2WINS」です。発足から約2年が経ち、いまではメンバーも約20名にまで増えています。
先行してコミュニティを形成し、知識と組織力を強化
客野:Axell社との交流がはじまったのは、「Blockchain Hackathon for Students 2022」に我々が審査員として参加させてもらったことがきっかけでしたね。もともとはブロックチェーンとAI、両方手掛ける組織として発足したのでしょうか?
※2WINSが運営する現役東大生によるWeb3コミュニティ「本郷web3バレー」が展開する学生ブロックチェーンハッカソン
小川:発足当初はAIの開発に絞っていたというか、初期メンバーが全員AIの開発を行っていたこともあって、まずはAIを自分たちの強みとして打ち出してきました。もちろんブロックチェーンにも興味があって、組織を立ち上げる少し前から日本でもNFTなどが話題になりはじめていたこともあり、会社設立から数ヶ月後にはブロックチェーンのコミュニティも立ち上げたんです。そこから「2WINS」にもブロックチェーンの“色”が入りはじめたというのが経緯です。AI開発だけでなく、ブロックチェーンも組み合わせたらできることが広がるんじゃ無いかと思って積極的に取り入れてきたわけですが、我々も学ばなければ何ができるかは分かりません。そのために、最初にコミュニティーを立ち上げて、そこからいろいろなことを学ぼうとしたわけです。
客野:東大のなかだけでも近い研究をする組織やスタートアップは複数あると思いますが、そのなかで「2WINS」の個性や強みを挙げるとすれば何でしょうか?
小川:おっしゃる通り、AIのスタートアップ起業は東大のなかだけでも数多くあって、そのことは特にこの1年で強く実感しています。開発技術を推しているひともいれば、ビジネスの知識が豊富なひとまでさまざまで、客観的に見ると後者のビジネス目線で起業するひとが多い印象でした。弊社の場合は、バックグラウンドが技術寄りのメンバーで構成されていて、そこで生まれた発想や技術をビジネスに展開できるのが、強みのひとつだと思っています。
客野:ビジネスの課題に対してAIを通じた解決策を技術的な観点からも提案できるのは、まさに大きな強みですね。
小川:客野さんが昨今のAIに興味を持つ学生たちをご覧になっていて、なにか感じることってありますか?
客野:まずエネルギーがすごいですね、AIに対する探究心と知ろうとする熱意がすごいと思います。小川さんが形成されているコミュニティーも然り、ブロックチェーンなどの新たな分野に対する“知りたい、やってみたい”という気持ちの強さにはいつも感心させられます。それに、コミュニティーを先行して形成してから何かを吸収しようという観点はおもしろいと思いました。そうしたのには、何か理由があるのでしょうか?
小川:当時ブロックチェーンを使っている事業には、何かしらのコミュニティーが付随しているということに気づいたんですね。いずれにせよコミュニティが必要になるのであれば、最初から自分たちで作ってしまおうというのが理由のひとつです。もうひとつは、先ほどお話ししたような“学びやすい環境”を自分たちで構築してしまおうという点です。仲間集めも同時にできますし、コミュニティーがうまくいっていれば、そこで新たな発想も生まれると思って。そうした学生の集合体も当時は少なかったので、あわよくばトップにもなれるかも、という狙いもありました。
ブロックチェーンからAI開発にしぼった理由
客野:そこから現在のAI事業に立ち返ったといいますか、AIに絞ったのには何か理由があるのでしょうか。
小川:まず僕たちの軸はあくまでAIでそこがブレたことはありません。その上で、AIを補助するような技術としてブロックチェーンを絡めることが出来たらとは今でも考えているのですが、まだAI×ブロックチェーンでしか解決できない課題がどこにあるのか、あったとしてそれを2WINSが取り組む際の実現可能性など、ヴィジョンが見えていないというのが正直なところです。
客野:ブロックチェーンって、結局はプラットフォームを作るようなものなんですよね。小さな単位で物ごとを展開していけるAI開発とは異なり、いかに多くの顧客を集めてトークンを売って収益化するかがカギで、必要な顧客の数が10万人以上必要であったり、とにかく大規模でビジネスとしては二極化が激しいように感じています。だから組織に何かしらシェアを持つものがあり、それをブロックチェーンでより活性化させるなどのバックグラウンドがないと難しい市場なのだと思います。
小川:御社ではブロックチェーンに向けたサービスなども展開されているのでしょうか?
客野:ブロックチェーンをサポートするアナライズするツールなども考えていましたが、やはりビジネスとして成立するまで時間がかかる市場であると判断して、現在はAIに注力している状況です。ただ、スマートコントラクトによってプログラマーが通貨を扱えるようになったこともあり、いずれは「CBDC(Central Bank Digital Currency)」をはじめとして基軸通貨がプログラムで制御できるようになると考えていますし、いつかそれが当たり前になるような気がしています。
東大発のAIスタートアップ「2WINS」の小川さんと、アクセル社の常務取締役・客野の対談インタビュー企画。前編では小川さんのこれまでの軌跡と組織立ち上げまでの経緯、そしてAI開発で見据える未来とブロックチェーンコミュニティを発足した理由などについて伺いました。中編では、ビジネスにおけるAIシーンの考察と未来予想についてお届けします。
Photo/Kenji Fujimaki
小川椋徹/おがわ りょうと
2WINS 代表取締役 Co-CEO
東京大学工学部機械情報工学科 卒業
東京大学大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 修士1年
アカデミアでは協調型自動運転の研究に従事。一般社団法人学生web3連合代表理事。東京大学最大のブロックチェーンエンジニア団体である本郷web3バレーのCo-Founder/現事務局総責任者。国内最大規模の学生ハッカソンとWeb3 Summitを代表として実施し、省庁や企業と連携したイベントの責任者を務める。東大松尾研の開講するGCI2023ではデータサイエンスを活かしたBizDevに取組み上位1%の優秀修了生を受賞。認定支援機関の支援担当者として中小企業の事業コンサルティングを2年間経験。「研究開発から社会実装へ」をテーマに自身でもAIの開発に取り組む。2022年、共同代表・吉村良太氏とともに「株式会社2WINS」を発足。
株式会社2WINS:https://www.2wins.ai
客野一樹/きゃくの かずき
株式会社アクセル 常務取締役 事業開発グループゼネラルマネージャ
ax株式会社 CTO 筑波大学客員准教授
筑波大学大学院において各種初等関数のハードウェア実装の研究で博士号を取得。株式会社アクセル入社後、アミューズメント市場向けの動画・音声の圧縮アルゴリズムの開発に従事。独自のAIフレームワークであるailia SDKを企画、開発。AIを専門に行うax株式会社設立、CTOに就任。現在は先端技術分野を中心にR&Dおよび事業化を行っている。